3月1日、WBC世界バンタム級タイトルマッチが行われ、1位の山中慎介が体重超過でベルトを剥奪された元王者ルイス・ネリに2R1分3秒TKO負けし、引退を表明しました。
前回の試合ではネリが山中にKO勝利。
その後のドーピング検査でネリが陽性だったにもかかわらず、WBCはなんのペナルティも課さずチャンピオンであることを認め、山中との再戦だけを指示。
そして山中が雪辱を期した今回、前日軽量の時点で2キロ以上の体重オーバー。
これによりネリのベルト剥奪が決まったが、試合自体は決行され、減量を放棄してエネルギーに満ち溢れたネリがきちんと苦しい減量をしてリングに上がった山中を圧倒してKO勝利。
現時点ではネリに対してベルト剥奪以外の制裁は無く、ファイトマネーも支払われるようです。
憐れな勝利
試合終了した瞬間、「あー、終わったか・・・。」という言葉を思わずつぶやいていました。
悔しさとか怒りの感情は不思議なほど無く、いちボクシングファンとしてただただ悲しくて虚しい気持ちでいっぱいでした。
前日計量のニュースを見た時にはネリ陣営に対する怒りの感情しかなかったのに、不思議なもんです。
試合終了後、リング上で大はしゃぎするネリ陣営を見て本当に憐れな人達だなと思いましたね。
「こんなんで勝って嬉しいのか?」って思ってる人が多いようですが、彼らはきっと嬉しいんでしょう、心の底から。
だからこそ憐れな人達だなと感じるわけです。
当の山中本人も大切にしてきたものをぶち壊された事への怒りや悔しさはあっても、この試合結果自体には悔しさとかはないんじゃないですかね?
あくまで僕個人の勝手な推測ですけど。
実力的にはネリはやっぱり強かったという意見もちらほら見かけますが、こういった意見には全く賛同できませんね。
これは感情論なんかじゃなく、不正をした選手の実力が強かったか弱かったかなんて絶対に言えるはずがないんですよ。
なぜなら、ネリの不正がどの程度試合に影響したのか検証する手段がないから。
「実力的にはネリが上」とか「減量しててもネリが勝ってたよ」とか言ってる人達は、体重超過がどの程度試合に影響を及ぼすか具体的なデータでも持ってるんですかね?
ここ数ヶ月の間、減量を無視し元気いっぱいで練習できてコンディション万全のネリと減量の地獄と闘いながら練習し、コンディションづくりに苦心してきた山中との間にどのくらいの差があったのか?
そしてその差がパンチ力、スピード、スタミナ、攻撃への耐久力、判断力に何%くらい影響して試合結果にどの程度現れたのか具体的な根拠なんかないですよね。
不正が行われた以上「やっぱりネリが強かった」とは言えないし、「条件が一緒なら山中が勝ってた」とも言えないわけです。
だからこそ最低限ルールを設けてその範囲内でどっちが強いか決めようぜってのがスポーツなんですよ。
ドーピングをした選手が100m走で勝っても「やっぱり彼は速かったね!」なんて誰も言わないでしょ。
不正をした選手の実力は検証不能なんです。
確実に言えることは、ラストファイトにかける山中の思いやそれを見届けたいという日本のボクシングファンの思いを、ルイス・ネリという男が踏みにじったという事実だけです。
試合を決断した山中の思い
一方で最終的に試合をやると決断したのは山中の意思だったので、「本人がやると決めた以上、負けは負け。納得できなければやらなければいい。」という意見もネット上で見られました。
これは僕の意見としては確かにそのとおりかなと思います。
本来なら今回のようなルールを無視した相手との試合を山中がやる義務はないし、拒否して当然でしょう。
実際、セミファイナルを闘った岩佐亮佑は以前に相手選手が約1キロの体重超過だったため、対戦を拒否して試合は中止となっています。
このようにルール違反をした相手とは試合をしないという毅然とした判断は正しいし、そうするべきだというのは正論です。
しかし、山中はそうしなかった。
それにはやはりこの試合を最後だと決めていたため、そしてこの試合をキャンセルすることの影響力の大きさを考えたため、この2点によって山中は試合をする決断をしたのではないでしょうか?
勝っても負けても最後の試合と決めていた山中にとってこの試合をキャンセルすることは難しかったでしょう。
また日本ボクシング界のスター選手である山中がキャンセルをすれば、テレビ中継する放送局、チケットを買って観に来てくれたファン、所属するジムなどにあまりに大きな影響を与えます。
それらを考えてどんなに理不尽だとわかっていても、感情を抑え込み試合をする決断をしたんだと思います。
そこまで山中を追い込んだことが、本当に許せない!
そしてそれはネリだけの問題ではなく、ネリの不正を放置したWBCの問題でもあります。
ドーピングを黙認したWBC
そもそも前回の試合後にドーピングが発覚したにもかかわらず、ネリに対して何のペナルティも無いこと自体が異常ですよね。
ドーピングをしてもチャンピオンでいられる、体重超過しても普通に試合ができるなんておかしくないですか?
WBCがなぜドーピングしたネリに罰則を与えなかったのか知りませんが、これでは真面目にルールを守っている選手は馬鹿らしいですよ。
ボクシングファンも離れていきますよ?
一応、この問題を受けてWBCがネリに対するファイトマネーの支払いを凍結することと無期限の資格停止処分を課すと声明を発表したようです。
しかしこの処分は甘すぎますね。
ファイトマネーの支払い凍結なんて一時的なもので、いずれ解除されて支払われるのは目に見えてますし、無期限の資格停止も期間は1年なのか3ヶ月なのか全くわかりませんし、短くしようと思えばなんとでもなります。
少なくともファイトマネーの没収や3年間の資格停止などはっきりとした処置でなければ、何の効果もないでしょう。
WBCとしては今回の件で日本国内だけでなく、アメリカのボクシングメディアも騒ぎ出したことから、とりあえず処分の体裁だけを整えたというところでしょう。
このような不正を放置していればWBCはいずれ自分達の首を絞めることになると思いますけどね。
稀代のボクサー、山中慎介
いろいろありましたが、今回の試合をもって山中慎介という稀代のボクサーは引退することになりました。
ジャブとワンツーで世界の頂点に立ち、12回連続防衛という偉大な記録を達成。
いちボクシングファンとして本当に素晴らしい試合をたくさん見せてもらってありがとうと言いたいです。
特にモレノとの第2戦はこれから先も語り継がれる試合だと思うし、個人的にも忘れられない試合です。
どうかゆっくり休んでもらいたいと思います。
お疲れ様でした。